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名古屋地方裁判所 昭和60年(ワ)1948号 判決

原告

甲野一郎

外四七名

右原告ら訴訟代理人弁護士

岩本雅郎

石畔重次

川上敦子

纐纈和義

福岡正充

松川正紀

山田万里子

右訴訟復代理人弁護士

矢田政弘

被告

ベルギーダイヤモンド株式会社

右代表者代表取締役

小城剛

被告

小城剛

右被告ら訴訟代理人弁護士

伊藤文夫

主文

一  被告らは、連帯して、原告らそれぞれに対し、別紙認容額一覧表の認容額欄記載の各金員及びこれらの金員に対する被告ベルギーダイヤモンド株式会社については昭和六〇年七月五日から、被告小城剛については同年七月一二日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は原告ら勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

被告らは、連帯して、原告らそれぞれに対し、別紙損害一覧表の請求額欄記載の各金員及びこれらの金員に対する被告ベルギーダイヤモンド株式会社については昭和六〇年七月五日から、被告小城剛については同年七月一二日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、原告らが被告会社から、別紙損害一覧表記載のとおり、それぞれダイヤモンド等の宝石類を購入して、被告会社が開催する講習を受け、購入代金、受講料及び印紙代を支払うなどしたが、被告会社の商法は、その仕組み自体がマルチ商法、無限連鎖講に該当しあるいはこれに類した公序良俗に反する違法なものであるばかりか、その勧誘方法も違法で独占禁止法にも違反しており、不法行為に該当するとして、また被告小城は被告会社の代表取締役としてその不法行為に加担していたから、被告会社との共同不法行為にあたり、あるいは選択的に商法二六六条の三の規定に基づき、いずれも原告らの被った損害について賠償責任があるとして、連帯して別紙損害一覧表記載のとおりの金員及びこれらに対する各訴状送達の日の翌日から支払いずみまでの遅延損害金の支払いを求める事案である。

一  当事者間に争いのない事実等

1  被告会社は、昭和五八年二月八日、宝石類の卸及び小売販売を目的とし、大阪を本店所在地として設立され、全国に二〇の営業店舗を擁していた株式会社で、現在の資本金は一億八〇〇〇万円である(争いがない)。

2  被告小城は、福岡通産局商工部アルコール第二課を課長補佐で退職した後、昭和五八年五月設立間もない被告会社の代表取締役となった(被告小城が被告会社の代表取締役となったことは争いがなく、その他は甲二25、四九)。

3  原告らは、別紙損害一覧表のとおり、被告会社からダイヤモンド等の宝石類(以下「ダイヤ」という。)を購入して、被告会社の愛好会会員となり(原告らが被告会社の愛好会会員となったことは争いがなく、その他は甲一1ないし48)、さらに原告Aを除く原告らは、被告会社との間で後記販売媒介委託契約を締結し、その販売媒介組織の会員となった(甲一1ないし48、七1ないし38)。そして原告らは、それぞれ別紙損害一覧表記載のとおり、その購入年月日欄記載の日ころ、その購入物欄記載のダイヤを、そのダイヤ購入金額欄記載の金額で購入しあるいは少なくともその金額を購入代金名下に出捐し、MCC受講料及び印紙代として少なくともそのMCC受講料欄及び印紙代欄各記載の金額を出捐した(甲一1ないし48、七1ないし38)。

4  被告会社の商法(争いがない。)

(一) 被告会社は、ダイヤを商品とし、その購入者(自動的に被告会社の愛好会会員となる。)との間でさらにダイヤの販売媒介契約(当初の名称は、ビジネス契約、以下「本件契約」という。)を締結して購入者を被告会社の会員(通称「ビジネス会員」、以下特に断らない限り「会員」とはビジネス会員をいう。)として次のとおり組織し、その会員を商品の販売者ではなく、販売媒介者として機能させることによってダイヤの販売を行ってきた。

(二) 被告会社の販売媒介組織は、会員の販売媒介累計額等に従って、上位ランクから順に、ベルギーダイヤモンドマネージァー(以下「BDM」という。)、ベルギーダイヤモンドエージェント(以下「BDA」という。)、オフィシャルメンバー(以下「OM」という。)及びダイヤモンドメンバー(以下「DM」という。)の四ランクに分けられていて、下位ランクの者は直上ランクの者に属しており、BDMを頂点としてピラミッド型の階層をなしている(以下被告会社の商法を「本件商法」、被告会社の販売媒介組織を「本件組織」という。)。

(1) DMとなるには、ダイヤを一個購入し、被告会社の承認面接を受けた上、同社との間で販売媒介委託契約を締結する必要がある。そしてDMは、同社主催の二日間(後日一日に短縮)にわたるマネージメントコンサルタントクラス(以下「MCC」という。)と称する講習を受けることを義務付けられており、その講習受講にあたり、受講料等として一万五〇〇〇円の出捐を要することとなっている。

(2) DMからOMへ昇格するためには、DMを三名以上育成するほか、自分とその配下の販売媒介累計額が二一〇万円以上にならなければならない。

(3) OMからBDAへ昇格するためには、OMを三名以上育成するほか、自分とその配下の販売媒介累計額が八〇〇万円以上にならなければならない。

(4) BDAからBDMへ昇格するためには、BDAを三名以上育成するほか、自分とその配下の販売媒介累計額が一か月間で一八〇〇万円以上にならなければならない。

(三) 被告会社における会員の収入方法は、販売媒介手数料、指導育成料及びオーバーライドの三種類である。

(1) 販売媒介手数料率は、自らが顧客と被告会社の販売媒介を行った場合に、その累積販売媒介額を基準として支払われる手数料であり、それぞれの地位に応じて、BDMが四七パーセント、BDAが三七パーセント、OMが二二ないし三二パーセント、DMが一五ないし三二パーセントの各料率が定められている(OMとDMの料率は、右範囲内で累積販売額に応じた料率が適用される)。

(2) 指導育成料は、自己の配下が販売媒介した場合に支払われる手数料であり、自己に適用される右記載の率と、当該配下に適用される率の料率差を累積販売媒介額に乗じて算出する。

(3) オーバーライドは、BDAとBDMについてのみ支払われる手数料であり、BDAについては、自己の配下がBDAとなり当該BDAもしくはその配下が販売媒介した場合に、右BDAを育成したBDAが累積販売媒介額の四パーセントを、またBDAがさらにBDAを育成し(要するに、BDAのいわば孫に相当するBDA)、当該BDAもしくはその配下が販売媒介した場合に、累積販売媒介額の二パーセントを支払うというものである。BDMについても、右と同じく、配下がBDMとなり、当該BDMないしその配下が販売媒介した場合に二パーセント、孫のBDM又はその配下が販売媒介した場合に一パーセントの報酬が支払われる。

このように本件商法においては、自己の配下とされる者が多ければ多いほど、上位の者は直接に販売媒介することなく収入を得る方途が多くなり、また、必然的に収入を得る機会が増す仕組みとなっている。

二  争点

1  本件商法の違法性

〔原告らの主張〕

(一) 必然的破綻と多数被害者の発生等

本件商法は、前記のとおり、ダイヤを購入のうえ、本件契約を締結した会員が販売媒介を行い、その配下に同様の会員を勧誘、加入させ、その配下の者がさらに販売媒介を行い新たな会員を勧誘して、自己の配下の者をネズミ算式に増やし、自己及び配下の者の販売媒介行為による販売媒介手数料等の収入(以下「リクルート料」ともいう。)によって莫大な利益を得ることができるとするものである。

そのため会員は、まず先行投資した数十万円のダイヤの購入代金を回収するべく、さらには、指導育成料もしくはオーバーライドといった非稼働利益を含めたより多くの利益を得るべく、自己の周囲の人間関係を利用して販売媒介活動に懸命となる。

しかし、一人が自己の出捐額を回収するために必要な最低三人を勧誘し、各自一か月三人宛新規会員を勧誘すると、一七か月後には三の一七乗となり、その数は一億二九一四万〇一六三人となって、日本の全人口にほぼ等しい計算となる。計算上の問題としてのみならず、現実の問題としても、販売媒介をして会員を加入させることは容易ではなく、本件組織原理に疑問を抱く者も多いと考えられるから、これが一定の限度で地域的にも限界点に到達し、リクルートの有限性の壁に突き当たり、新たに会員を勧誘することが事実上困難となって行き詰まることは明らかである。そのため本件商法は、その構造上、早く始めた一部の者のみが儲かり、最終的にその他の多数の者は不必要なダイヤを購入させられてその代金等として出資した費用すら回収できずに損害を被るという不公平な結果をもたらすことになる。加えて、本件商法は紹介商法としての特徴から、信頼関係ある人脈を通じて販売媒介活動が行われるために、ひとたび本件商法の実態を知りあるいは破綻を来した場合に、右信頼関係を破壊し、ひいては夫婦・親子・兄弟間などの家庭内不和を招き、また、友人知人を喪失させ、あるいは取引を停止され、借入金でダイヤを購入した者と貸与者との間にトラブルを惹起するなどして、ノイローゼ・不眠症・頭痛などの心身障害を起こす等多種多様な社会悪を発生させる。

このような反社会的かつ不当な結果は、リクルート料の分配を主旨とするピラミッド型組織としての本件商法の仕組みから必然的に発生するものであり、本件商法はその仕組み自体から違法というべきである。

(二) 無限連鎖講の防止に関する法律との関係

本件商法は、無限連鎖講の防止に関する法律(昭和六三年法律第二四号による改正前のもの、以下「無限連鎖講防止法」という。)が禁止している無限連鎖講(いわゆるネズミ講)そのものである。

無限連鎖講防止法二条は、「一定額の金銭を支出する加入者が無限に増加するものであるとして、先に加入した者が先順位者、以下これに連鎖して段階的に二以上の倍率をもって増加する後続の加入者がそれぞれの段階に応じた後順位者となり、順次先順位者が後順位者の支出する金銭から自己の支出した額を上回る額の金銭を受領することを内容とする金銭配当組織」を無限連鎖講(いわゆるネズミ講)と定義し、その開設、運営、加入の勧誘等を刑事罰をもって禁止している。無限連鎖講と本件商法は、前者が一定金額の金銭支出を要件とし、後者が金銭自体ではなくダイヤの販売代金という形式をとっている点で相違している。しかしながら、本件商法は、商品販売の形式をとってはいるものの、その目的は金銭の利得そのものにあって、ダイヤはそのための単なる手段として、その代金は金銭配当組織に加入するための加入金として機能しているにすぎず、両者は本質的に同一である。

したがって、本件商法は、無限連鎖講防止法二条が禁止する無限連鎖講の要件を備えたものであり、ネズミ講の一種と解すべきである。

このように「一定額の金銭」の支出の要件は、三〇万円以上のダイヤの購入という点で充足されると解されるが、仮にそうでないとしても、「一定額の金銭」の文言は、無限連鎖講防止法制定時までに蔓延していたネズミ講が、偶然そのような形態であったために定められたにすぎない。また対象を金銭に限定している点も、立法過程においては金銭以外のものでは組織が複雑になりすぎて成り立たないと考えられていたからであり、商品の販売を規制しない趣旨ではない。

仮に本件商法が無限連鎖講にはあたらないとしても、無限連鎖講と本件商法は、その組織原理において共通し、違法性も同一であるといえる。すなわち、無限連鎖講が違法とされる所以は、これがその組織原理からして必然的に破綻すべきものであり、その結果としてごく一部の主宰者が暴利を得る一方、多数の被害者を生み多種多様な社会悪を発生させる点にあるところ、本件商法も前記のとおりこれと全く同様の結果をもたらすものであるからである。

したがって、無限連鎖講の開設、運営、加入の勧誘等を刑事罰をもって禁止している無限連鎖講防止法の趣旨からして、本件商法は公序良俗に反するものであって、これを開設、運営、加入の勧誘等する行為は、不法行為を構成するというべきである。

(三) 訪問販売等に関する法律との関係

本件商法は、訪問販売等に関する法律(昭和六三年法律第四三号による改正前のもの、以下「訪問販売法」という。)が実質的に禁止しているいわゆるマルチ商法(マルチレベルマーケティングプランの略称)そのものである。

マルチ商法とは、別名「人狩り商法」、「ネズミ講式販売方法」あるいは「ピラミッド式販売方法」とも呼ばれ、商品の販売組織作りにおいて著しい特徴がある。すなわち、加入者が次々に他の者を組織に勧誘、加入させることによって組織が増殖し、人の勧誘、加入が多額の金銭的利益に繋がるというものである。そのため加入者は、自己の配下の加入者を増やせば増やすほど高収入が得られるので、誇大宣伝、詐欺的、脅迫的勧誘等不当な方法を用いて加入者を得ようとする。

そこで、訪問販売法は、その一一条において、「物品の販売の事業であって、販売の目的物たる物品の再販売をする者を特定利益を収受しうることをもって誘引し、その者と特定負担をすることを条件とするその商品の販売に係る取引をするもの」を「連鎖販売取引」と定め、右取引に関し一二条以下において、不正勧誘の禁止(一二条)、不適正な勧誘が引き続き行われるおそれがある場合の取引停止命令(一三条)、広告規制(一四条)、書面交付義務(一五条)、クーリング・オフ制度(一六条)等の厳格な規制を設け、マルチ商法を実質的に禁止している。

訪問販売法一一条が規定する連鎖販売取引と本件商法は、前者が商品の再販売を要件とし、後者が商品の販売媒介という形式をとっている点で相違しているが、マルチ商法を実質的に禁止しようとする同法の趣旨からすれば、前記のとおりマルチ商法と本質的に同一の特徴を有する本件商法も訪問販売法の規制の対象となる。同法の規定する要件は、偶然制定当時蔓延していたマルチ商法の特徴をもとに定められたものにすぎす、この要件に形式的に該当しない商法を規制しない趣旨ではない。このことは、前記法律による改正後の訪問販売法では、商品の再販売だけでなく販売をあっせんすることも連鎖販売取引に含まれるとしており、本件商法がこれに該当することからも明らかである。

したがって、本件商法は、訪問販売法が実質的に禁止するマルチ商法そのものであり、仮にそうでないとしても、訪問販売法を潜脱しようとするものであって、これを遂行することは不法行為を構成するというべきである。

(四) 勧誘方法の違法性

被告会社は、ダイヤを購入させてこれを販売媒介者として組織するために、勧誘の有限性を隠蔽し、特異な成功例を持ち出し、店舗を豪華に演出し、集団催眠を施すなどして、不当・誇大な宣伝を行い、かつ、極めて詐欺的・脅迫的な勧誘を行っていた。その実態は次のようなものである。

(1) 被告会社は、ビジネス会員となった者に、親戚、友人、知人等を、ただ単に「いい話がある。」とか「儲かる話がある。会ってからでないと言えない。」などと電話で呼び出させ、ダイヤ購入という真の目的を秘したまま、被告会社店舗で主催するビューティフルサークル(以下「BC」という。)と称する催しに参加させる。勧誘を受けた者は、会員の話に興味をそそられ、あるいは、会員との人間関係上断れずに被告会社の店舗に連れてこられることになる。

(2) こうして集められた顧客に対し、被告会社はBCという催しを通じて一種の集団催眠を施し、健全な理性を麻痺させ暗示にかかりやすい状態に陥れる。すなわち、会場を極めて豪華に演出し、正装の会員に顧客を握手攻めにさせ、ダイヤに関する映画を見せ、ダイヤの購入者は被告会社の愛好会会員として種々の特典を享受できること、そしてその最も重要なものとしてビジネス会員の特典について説明し、成功者の話を聞かせる。そして、被告会社の商法は、素晴らしい夢のような商法であり、ダイヤを購入して会員となれば、数か月後には容易に月収数百万円の利益が得られるなどと繰り返し、その都度盛大な拍手を組織して会場の雰囲気を異常な興奮状態に高め、誰でも容易に高収入が得られるかの如き錯覚を起こさせる。

(3) BCで理性的判断力、思考力を麻痺させ、勧誘に対する反論や抵抗が困難な状態に陥れた後には、豪華な応接セットで、BDMを含めた数人の会員がグループとなって一人の新入者を取り囲み、預金通帳を見せて現実に月々数百万円の収入があるかのように説明し、本件商法に参加すれば誰でも容易に高収入が得られるかのような説明を繰り返し、本件商法に参加するよう執拗に勧誘する。

そして、この夢のような儲け話に心を動かされた顧客に対し、この商法に参加するためには被告会社のダイヤを一つ購入しなければならないこと、この購入代金は三人の子会員を増やすだけで元がとれること、その後は自己の配下の会員の働きにより莫大な利益が得られることなどを説明し、ロビー横に設置されたショーケースに陳列されたダイヤを購入するよう執拗に勧める。

決断を渋る者に対しては、これほど良い話を無駄にするのは馬鹿だとか、購入を勧める者を信用できないのかなどと半ば脅迫的言辞を弄しながら購入を迫る。

(4) こうして被告会社は新入者に対し、新規勧誘の有限性・困難性及び本件商法の人狩り商法としてのエゴイスティックかつ欺瞞的なその実態について隠蔽したまま、集団催眠を施してその冷静で理性的な判断能力を奪った上、金銭欲を過度に刺激し、あるいは、半ば脅迫的言辞を弄し、本件商法は素晴らしいものであって、これに参加すれば誰でも容易に高収入が得られると錯覚させ、この錯覚に基づいて本件商法に参加する条件として、不要不急のダイヤを利潤追求のための手段、投資として購入させたものであり、このような勧誘が極めて違法性の高いものであることは明らかである。

(5) またこのような勧誘は、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独禁法」という。)において、不公正な取引として禁止されている。すなわち、同法一九条は、不公正な取引方法を禁止し、その内容を同法二条九項で規定するとともに、昭和五七年六月一八日公正取引委員会告示第一五号で不公正な取引方法を例示しており、右告示の八項「ぎまん的顧客誘引」(自己の供給する商品又は役務の内容又は取引条件その他これらの取引に関する事項について、実際のもの又は競争者に係るものよりも著しく優良又は有利であると顧客に誤認させることにより、競争者の顧客を自己と取引するように不当に誘引すること。)、九項「不当な利益による顧客誘引」(正常な商慣習に照らして不当な利益をもって、競争者の顧客を自己と取引するように誘引すること。)に該当する違法なものである。

〔被告らの主張〕

(一) 必然的破綻と多数の被害者の発生等について

原告らが主張する組織の等比級数的拡大による市場飽和論は、非現実的であり、また、市場の有限性はすべての商法に共通する事柄であって、本件商法においても、そのような算術級数的会員の増加と市場の有限性による破綻というような事態は具体化しておらず、右のような抽象的な理論をもって本件商法を違法ということはできない。

被告会社の破綻は、本件商法の仕組み自体によって生じたものではなく、被告会社の全株式を保有する豊田商事株式会社及び後には銀河計画株式会社(以下「それぞれ「豊田商事」、「銀河計画」という。)が破綻したことによるものである。

また商法の破綻の結果として、主宰者の暴利や多数の被害者の発生等の事態も生じていない。すなわち、本件組織の会員が販売媒介に成功せず、販売媒介手数料等の経済的利益を得ることができなかったとしても、会員の手元には必ず購入代金相当の価値を有するダイヤが残るのであるから、会員に損害を与えることはなく、本件商法において被害者を発生させることはない。

(二) 無限連鎖講防止法との関係について

無限連鎖講と本件商法は、ともに人的連鎖を組織拡大の原動力としている点で共通しているが、本件商法はダイヤという商品の販売組織であって、既成のダイヤ流通機構に対抗するために人的連鎖をその販売戦略として採用しているにすぎない。本件商法に加入した会員は、すべて真正な一定以上の品質を有するダイヤを店舗で検分選定の上購入しているのであり、ダイヤは本件商法の単なる手段にすぎないなどということはできず、専ら金銭授受の仲介ないし分配を行う純然たる金銭配当組織でないことは明らかであって、同法によって禁止されている無限連鎖講ではない。

また、ネズミ講が禁止される所以たる必然的破綻の結果としての主宰者の暴利と多数の被害者の発生といった事態も、前記(一)のとおり生じていない。すなわち、本件商法が必然的に破綻するものではないことは前記のとおりであるし、本件商法では、市場価格相当の代金を支払って購入した真正なダイヤが必ず会員の手元に残るから、出資金を回収できずに被害を被るということはないのである。

(三) 訪問販売法との関係について

そもそも訪問販売法は、その規定の仕方からしてマルチ商法を実質的に禁止しようとするものではなく、あくまで連鎖販売取引を行う者に対して、同法一二条以下に規定する一定の規制を課しているにすぎない。

また、訪問販売法がその規制の対象としている連鎖販売取引は、「物品の再販売」、「店舗等によらないで販売する個人」及び「特定負担」等をその要件とするが、本件商法はそのいずれにも該当せず、同法を適用ないし準用することはできない。

さらに本件商法は、マルチ商法ないしマルチまがい商法が違法とされる所以である、(1)不実誇大な宣伝による勧誘、(2)商品の品質、性能の無価値性、(3)契約内容の不明確性、(4)契約解除に対する制約等の問題点を克服している。

すなわち、被告会社は、本件商法の企画にあたって、過去のマルチ商法の問題点を克服すべく、販売対象であるダイヤの品質の向上に努めるとともに、不実・誇大な宣伝をしないようビジネス教室及びMCCを開催して会員に対し指導し、また、勧誘にあたって中核的役割を果たすBDA及びトレーナーに対しても適切な勧誘を行うよう指導育成に力を注いでいる。加えて、本件契約にあたっては新入者に対し組織参加意思の再確認を行い、衝動的な購入の防止に努めてきた。また会員が販売媒介活動に狂奔することがないよう、在庫の保持等のノルマを課さないこととし、さらに被告会社の愛好会会員として、(1)次回ダイヤ購入時の割引、(2)ダイヤのリフォームサービス、(3)会員フロアの利用、(4)被告会社主催のイベントへの優待・招待、(5)全国提携施設の割引等の特典を与えている。

(四) 勧誘方法の違法性について

被告会社は新入者の勧誘のために店舗等を豪華に演出する等しているが、これは被告会社が嗜好品、贅沢品であるダイヤを商品として販売する以上当然のことである。またBCにおいては集団催眠術などを行っていない。被告会社は、会員が無理な勧誘をしないよう、新入者に納得の上契約させることを強調し、特異な成功例をあげたり、法外な利益が得られると錯覚させるような言動説明をしないよう契約書においても明記し、実際に指導している。

また、顧客が衝動的にダイヤを購入するようなことがないよう、購入申込み後冷却期間として代金支払手続のための四日間を設け、右期間内に代金支払手続がなされない場合には自動的に申込みがキャンセルされることとしていた。

2  原告らの被った損害

〔原告らの主張〕

(一) ダイヤ購入代金・受講料・印紙代

原告らは、別紙損害一覧表記載のとおり、被告会社からダイヤを購入し、同社の開催するMCCと称する講習を受け、同社との間で本件契約を締結し、その際受講料及び本件契約書に貼付する印紙代を支払い、よってそれぞれ同表記載のとおりの損害を被った。

(二) 慰謝料

原告らは、違法な本件商法に巻き込まれ、家族親類知人等との信頼関係を著しく損なわれ、また、本件商法への参加を勧めた者からは軽蔑されるなどして著しい精神的苦痛を受けた。その慰謝料は各金五万円が相当である。

(三) 弁護士費用

原告らは本件訴訟の提起を本件訴訟代理人である弁護士に依頼した。その費用は各金一〇万円が相当である。

〔被告らの主張〕

(一) ダイヤ購入代金・受講料・印紙代について

原告らの手元には、その価格相当の価値を有するダイヤが残っているのであるから、原告らにはダイヤ購入代金相当の損害は生じていない。

またMCC受講料は、原告らが自らの意思で受講した講習の実費であって、これを損害ということはできない。

本件契約書貼付の印紙代も、原告ら自らの意思で締結した契約にかかる印紙税法に定められた税金であって、これを損害ということはできない。

(二) 慰謝料について

財産的損失による損害賠償は、原告として右損失の金銭賠償によって賄われるものであり、慰謝料を請求するには右金銭賠償によっては賄えない精神的苦痛を被ったことが必要であるが、原告らはそのような精神的苦痛を被ったものではない。

(三) 損益相殺

原告らと被告会社との契約の結果、原告らの手元にはダイヤが残っているのであるから、ダイヤの現在における適正価格分を損害額から控除すべきである。また、販売媒介の結果として被告会社が原告らに配当した販売媒介手数料等についても損害額から控除すべきである。

第三  争点に対する判断

一  争点1について

1  必然的破綻と多数の被害者の発生等について

(一) 前記当事者間に争いのない事実等と証拠(甲九、一一、一二6ないし14、29、30、34、36、一五、一八)によれば、以下の事実が認められる。

被告会社の商法の仕組みは前記当事者間に争いのない事実等4に記載したとおりであり、これによれば、被告会社は、その目的どおりダイヤを商品として販売しているが、その販売組織に著しい特徴を有している。すなわち被告会社は、そのダイヤを購入した大部分の顧客との間で別にビジネス契約を締結して、その者達を会員として被告会社の商品の販売媒介者として組織し、会員の個人的な人的関係を利用して新たな購入者の開拓に当たらせ、その販売媒介を担当させたうえ、その営業成績に見合った歩合報酬たる販売媒介手数料を支払うこととし、会員の地位も下からDM、OM、BDA、BDMの四ランクに分け、その販売媒介累計額等の増加に従い順次ランクが上昇することによって、歩合報酬率が上昇することとなっている。しかもそれだけではなく、その販売媒介の結果、ダイヤを購入しさらには会員となった者については自分の下位に属する会員として、その会員(その会員の販売媒介の結果、ダイヤを購入しさらには会員となる者がある場合にはその者を含み、以下同様に連鎖する。)の営業成績に見合った歩合報酬をも自らの報酬として取得することができることになっている(その報酬は指導育成料、オーバーライドと呼ばれている。)。こうして、下位のランクの者は直上ランクの者に属し、BDMを頂点とするいわばピラミッド型の階層をなし、会員はその地位に応じた割合による販売媒介収入だけでなく、下位のランクの者の稼働により、指導育成料及びオーバーライドという非稼働収入を得ることができることとなっている。このため、ダイヤの販売媒介をするだけでなく、被媒介者がさらに会員となって自分の下位に属することとなれば、その者の販売媒介による収入も得られて、媒介者はより多額の収入を得る道が開けるわけであり、本件組織は、そのような下位の会員が多くなれば、上位の者は自ら販売媒介をすることなく得られる非稼働利益が幾何級数的に多くなるような射倖性の高い組織形態となっている。このような組織原理のもとでは、多数の顧客の開拓(ダイヤの販売媒介)及びその階層組織化(会員への勧誘)が射倖心を煽り立てられた会員の活動によって強力に押し進められていくことになる。現に被告会社が会員に対して実施していたMCCなどの講習においては、このような組織原理のもとで得られる多額の収入をそれぞれ実際に計算させて高収入を実感させてみたり、知人友人をいかに勧誘するか、勧誘した友人らがダイヤを購入した後、キャンセルしないようにアフターケアを心掛け、MCC講習を確実に受講させて組織化を図ることこそがこのビジネスを成功に導くか否かの最大の鍵であると指導していた。

(二) このようなピラミッド型組織の基本的な組織原理は、何らかの出捐をして当該組織の会員となった者が、第三者を同組織に勧誘し加入させる対価として経済的利益を受ける権利を取得し、その勧誘によって新たに加入した会員も出捐をして同様の権利を得ることにより連鎖化し、その結果、新たに組織の会員となった者が、組織加入に際しての自己の出捐以上の経済的利益を得るためには、このような勧誘による加入が無限に持続、拡大されなければならず、これが組織存立の根本条件をなしている。そのため理論上は新規加入の対象たる人口の有限性という壁に突き当たるという自己の内に破綻の必然性を内在させているのみならず、現実的にも組織の拡大とともに勧誘が困難となって、新規加入者が殆どないという状態に立ち至り、前記のような組織原理が破綻に至ることとなる。そうした場合、先に加入したごく少数の者だけが巨利を博する一方、前記のような組織の性質上末端に位置する多数の者は、組織加入の際に期待していた収入を得ることができないばかりか、その出捐を回収することすらできないことに確定する。このようにその組織がいつ破綻するかによって、巨利を博する者、自己の出捐を回収できる者、そして自己の出捐すら回収できない者とが偶然的に分かれることになるため、このような組織は射倖性、賭博性を強く帯びるわけである。したがって、このような組織を開設、運営する主宰者としては、右のような組織の本質ないし問題点を明らかにすることはその自殺行為であって、自ずからこれを隠蔽するように努め、必然的に詐欺的、欺瞞的な勧誘方法をとらざるをえないこととなるのである。

(三) これに対し被告らは、リクルートの有限性による破綻は非現実的なものであり、また、新規加入の有限性自体があらゆる商法に共通するものであるとし、本件商法が破綻したのは組織の基本原理によるものではなく、被告会社の親会社である豊田商事及び銀河計画等豊田商事グループがその会長であった永野一男らの考えにより、あまりにも急速に事業を拡大したため、結果的に経費が膨らんで利益を上げられなくなり、同時に豊田商事グループが行っていた他の商法が社会的に問題となり、永野会長の殺害にともない同社が倒産に追い込まれたあおりによるものである旨主張する。

しかしながら、本件商法における破綻の必然性が現実的なものであることは前記のとおり明らかであるし、本件商法においては、新規加入者のダイヤ購入金額のみが会員の収入を支えているため、このような新規加入者を不断に創出すること(人口の自然増程度の増加率では幾何級数的増加率には遠く及ばない。)以外には本件商法の維持継続ができないのであって、新たな商品開発による市場の開拓とか生産調整など、他の商法においては可能な需要創設や供給の調整という余地が全く無く、この点において他の商法とは本質を異にすると言うべきである。

ところで証拠(甲三1ないし3、四1ないし6、六1ないし5、一二33、四〇ないし四三、四六ないし四九、五三、乙二九ないし三一、五七、五八)によれば、被告会社は、純金ファミリー契約という詐欺的商法で急成長した豊田商事を中核とするいわゆる豊田商事グループに属し、その全株式を豊田商事(昭和五九年四月以降は銀河計画)が保有しており、その中枢部は、ほとんど豊田商事グループから派遣された者で占められ、人的物的両面において同グループの援助を受け、基本的経営方針の決定等も実質的に同グループが行っていたこと、被告会社の事業は、豊田商事グループによる商法が次第に行き詰まっていく中で、その資金源とするべく豊田商事グループ統括者永野一男会長の発案をもとに始められたもので、その商法は、いずれも昭和五〇年ころからいわゆるマルチ商法として世間を騒がせたホリディ・マジック社の運営に関与した経験を持つ藤原照久及び平井康雄らが、右会社の商法をもとにその問題点を克服するために種々の工夫をこらして考案したワールド・ポテンシャル・ムーブメントと称する販売組織の基本構想に基づくものであること、被告会社は昭和五九年五、六月に月商約五〇億円の最高売上を記録したが、そのころ銀河計画に対して約一〇億円の資金移転をしたため、物品税の支払いにも事欠くようになり、その後慢性的に資金繰りに窮するようになったことが認められる。しかし、他方前掲証拠(甲一二33、四〇、四六ないし四八、五三)によると、被告会社は、昭和五九年五、六月に最高の売上を記録した後には、支店数を増やすなどの営業上の努力にもかかわらず、営業成績すなわち新規会員の加入数が伸び悩んだため、採算ラインである月商四三億円の売上を確保することができず、ビジネス会員に対する多額の販売手数料を始めとする経費の負担に耐えられなくなって、資金繰りに窮したことも認められるのであって、結局その破綻は、豊田商事の破綻などの事情が重なったにせよ、実質的には新規会員の無限の加入を組織の存立の基礎とするその商法自体に内在した原因によるものと解される。

したがって被告らの右主張は採用できない。

(四) 次に被告らは、本件組織の会員が販売媒介による経済的利益を得ることができなかったとしても、会員の手元には必ず購入代金相当の価値を有するダイヤが残るから会員に損害を与えることはなく、本件商法において被害者を発生させることはない旨主張するので、この点について検討する。

証拠(甲一1ないし48、七1ないし38、一四1、2、一六1ないし11、二九1ないし6、三〇、三二、乙二五1、2、四一1、2、証人池田浩一郎)によると、ダイヤの品質鑑定は、一般に、カラット(重量)、カラー(色合い)、クラリティー(透明度)及びカットといういわゆる四Cの基準によって評価するG・I・A(米国宝石学会)の鑑定方式(以下「G・I・A鑑定方式」という。)が世界共通のものとして通用しているところ、右鑑定方式によると、被告会社が販売の対象としたダイヤは、我が国で販売されているダイヤとしては中等程度以上の品質を有する真正なものであること、被告会社はこれらのダイヤ(いずれも一カラット未満)を三〇万円ないし五〇万円の価格で販売していたが、原告B、原告C、原告D、原告E、原告A及び原告Fがそれぞれ購入したダイヤ(購入価格は三〇万円ないし三九万五〇〇〇円)を鑑定した中部宝石商業協同組合理事で名古屋で宝石商を営む池田浩一郎によると、名古屋地方の小売店での現実の販売価格は一〇万円ないし二〇万円であるとの意見であったこと、ところでダイヤはその商品の特性として、一般消費者がひとたび購入した後は、これを売りに出すための一般の市場がないために転売自体が一般に困難であり、これを業者に持ち込んだ者の中にはこのような小粒のダイヤは購入価格の一割程度でしか換金できないと言われた者がいること、このようにダイヤは販売価格の設定について目安となる一応の基準はあるものの、嗜好品・贅沢品としての特性から、最終的には価格を設定する者の主観に左右されるところが大きく、同一の品質の商品に対しても様々な価格が設定されており、市場における一般的な販売価格自体非常に不明確なものであることが認められる。

このように被告会社が販売の対象としたダイヤは、被告会社が保証した品質を有する真正なものであって、いわゆるくずダイヤとして客観的に無価値なものであるなどとは言えないが、その販売価格は一般の市場小売価格と比較してもなお相当高額なようであり、しかも本件原告らが購入した程度の小粒のダイヤには凡そ市場性が乏しい結果、それらの転売可能性からみた交換価値は、その購入価格と比較すると著しく低いことは明らかである。したがって、一般的には右のようなダイヤが手元に残るからと言って、それだけでは被告会社に対して出捐した金額相当の価値を保持しているとはいえない。もっとも、そのような販売価格と交換価値との間に乖離のみられるダイヤでも、宝飾品や贈答品としての需要がなお一般に高いことは公知の事実である。このことはダイヤ自体の交換価値に由来するものではなく、その宝飾品としてのいわば主観的な価値に由来するものと考えられるから、原告らが、ダイヤを購入するに際して、専らこのような主観的な価値に着目していたとするならば、まさしくそのダイヤの購入価格に相応しい価値を保持していると評価することもできると言える。

そして原告らの中には、宝石に憧れがあり、それで金儲けができればそれにこしたことはないとか、ダイヤも欲しかったと述べる者も見られるが(原告G及び原告H、甲一17、28、七13、20)、証拠(甲一1ないし48、七1ないし38)によれば、原告らは、いずれも友人知人から誘われるままに、それと知らずに被告会社のダイヤ販売宣伝集会と言うべきBCに参加し、そこにおいて初めて、被告会社がベルギーから中間卸業者を介在させずに(即ち廉価で)ダイヤを輸入しており、そのダイヤは正式な鑑定機関による最高の品質を備えているばかりか、このダイヤを買えば様々な特典があり、その特典のなかでも会員となれば手軽に金儲けができることを宣伝され、友人知人である会員や勧誘専門のトレーナーらから盛んに勧誘された結果、その多くは会員となって積極的に会員を勧誘して金儲けに励もうと考え会員になる手段として、またそれ以外の者も、他人を積極的に勧誘しようとまでは思わないものの、友人知人らから執拗に誘われるのに根負けし、直接輸入で高品質とのうたい文句に眩惑され少なくとも出捐額相当の客観的価値のある高価なダイヤは手元に残ることに期待をかけて、集会参加前には夢にも思わなかった代金三、四〇万円という高額で不要不急なダイヤを、他の宝石販売業者の商品や値段の比較検討をすることさえしようともせずに、殆ど即決で購入して会員となり、あるいは会員となる資格を得るに到り、前記の原告Gや原告Hを含む原告らの多くの者は、その後会員としてMCCを受講し、早速友人知人を勧誘すべくBCに誘っていたことが認められる。

このような事情に照らすと、原告らの多くは専ら会員になるための手段として被告会社の販売する商品たるダイヤを購入したにすぎず、またそれ以外の者も少なくともダイヤが被告会社の販売価格に則した客観的な交換価値を有しているものとしてダイヤを購入した(前掲証拠によれば、原告G及び原告Hもこのことを当然の前提としていると認められる。)ものと認められるのであって、結局転売可能性という観点からみた客観的価値の著しく低いそのダイヤが原告らの手中に残っていることから、その出捐した価格に相応しい価値が残存しているなどとは到底解することができない。

(五) そうしてみると、本件商法は、著しい射倖性、賭博性を有し、その構造上必然的に破綻する結果として、多数の被害者を生みだすものと認めることができる。

2  無限連鎖講防止法との関係について

無限連鎖講防止法二条は、無限連鎖講(いわゆるネズミ講)について、組織への加入者が「一定額の金銭を支出」することを要件として規定している。本件組織の加入者は、前記のとおり一定の品質を有するダイヤの販売代金の支払として金銭を支出しているわけであるから、本件組織をもって同法の定める無限連鎖講に該当すると断定することは困難である。

ところで無限連鎖講防止法は、無限連鎖講の開設、運営、加入、加入の勧誘及びこれらの行為の助長を禁止し(三条)、これを開設し又は運営した者に対しては三年以下の懲役又は(及び)三〇〇万円以下の罰金に、業として無限連鎖講に加入することを勧誘した者に対しては一年以下の懲役又は三〇万円以下の罰金に、そして加入を勧誘した者に対しても二〇万円以下の罰金にそれぞれ処することとして(五条ないし七条)、極めて厳格にこれを規制しているのであるが、その理由は、「無限連鎖講が、終局において破たんすべき性質のものであるのにかかわらずいたずらに関係者の射倖心をあおり、加入者の相当部分の者に経済的な損失を与えるに至るものであることにかんがみ、これに関与する行為を禁止」し、「無限連鎖講がもたらす社会的な害悪を防止することを目的とする」(一条)ことにある。このような無限連鎖講防止法の立法趣旨に照らすと、同法所定の無限連鎖講に該当しない組織であっても、終局において破たんすべき性質のものであるのにかかわらずいたずらに関係者の射倖心をあおり、加入者の相当部分の者に経済的な損失を与えるに至る組織については、無限連鎖講と同様に公序良俗に反するものとして、その開設、運営、加入、加入の勧誘及びこれらの行為の助長は民事上強度の違法性を帯びるものと解するのが相当である。

そこで本件についてこれをみると、前記認定の事実関係に照らすと、本件組織が終局において破たんすべき性質のものであるのにかかわらずいたずらに関係者の射倖心をあおり、加入者の相当部分の者に経済的な損失を与えるに至る組織であることは明らかである。特にダイヤの購入代金として金銭を支出した会員達の多くは、ダイヤ自体が欲しくてこれを購入したものではなく、本件組織に加入して経済的利益を得る地位を確保するために、その資格を得る手段方法としてダイヤを購入し、金銭を支出したわけであるから、本件組織は無限連鎖講防止法にいう無限連鎖講の実質を備えていると評価して差し支えないものと言える。

3  訪問販売法との関係について

(一) 訪問販売法は、その規制の対象とする連鎖販売取引について、「商品の再販売」を要件として規定しているところ、本件商法は会員に商品を再販売させるのではなく、商品の販売を媒介させる形式をとり、商品の再販売による在庫の滞留による会員の被害を解消しているので、本件組織を同法の定める連鎖販売取引に該当するものと解することはできない。

しかしながら、訪問販売法が連鎖販売取引の要件として再販売を規定した理由は、同法制定当時蔓延していたマルチ商法が、たまたま物品の再販売の方式を取り、その商法に参加した多数の者に在庫の滞留による多大な被害を与えていたことから、これを規制しようとしたためにすぎず、再販売の要件を満たさない商法を放任しようとした趣旨ではないと解される。このことは、その後昭和六三年法律第四三号により改正された訪問販売法においては、連鎖販売取引の要件として「販売のあっせん」が加えられていることからも窺われるのであり、右改正法の規定によれば、本件商法は名実ともに連鎖販売取引に該当し、同法所定の罰則を伴う規制に服することになったと解される。したがって、本件商法は、訪問販売法が厳しい規制を課して強く抑制しようとしていたマルチ商法と本質を同じくするものと解して妨げないものというべきである。

(二) これに対し、被告らは、販売対象であるダイヤの品質の向上に努めたこと、不当な勧誘をしないよう会員達に対してさまざまな教育指導を行ってきたこと、そして従来のマルチ商法にみられた在庫の保持、昇格の条件として一定の期間内の売上額を採用する等ノルマとなるものを会員に対し一切負担させないこととする一方、ダイヤを購入した会員を被告会社の愛好会会員として種々の特典を与えるなどして、従来のマルチ商法等の問題点をすべて克服した旨主張する。確かに、被告会社の販売するダイヤの品質は低くはなく、会員には愛好会会員としての特典こそあれ、ノルマは負わされていないのであるが、被告会社が会員達に不当な勧誘をしないよう充分な教育指導をしてきたと認めるに足りる的確な証拠はなく、かえって前記認定事実によれば、会員は、いずれも新規会員の勧誘によって得られる自己の経済的利益の莫大なことや確実に新規会員を加入させるための指導を受けて、自己の経済的利益の獲得のために次々と友人知人をBC会場に誘ったうえ、トレーナーらを先頭に、容易に金儲けができるとして執拗な加入勧誘活動を行っていたことが認められるのであって、被告らの右主張は採用できない。

4  勧誘方法について

(一) 本件組織を維持発展させようとすると、その抱える問題点を隠蔽するため必然的に詐欺的、欺瞞的な勧誘を行わざるをえないことは前記認定のとおりである。そして証拠(甲一1ないし48、二7ないし9、11、14、19、21、七1ないし38、八1ないし33、九、一一、一二8ないし14、29、30、一九、二三1、2、二四、二五、乙三二、三三1、2、三四1、2、三八1、2、三九)によれば、被告会社が行った勧誘の態様は以下のようなものであったと認められる。

(1) 被告会社は、会員となった者に、決して目的を告げずに親戚、友人、知人等を誘うよう指導し、会員からいい話があるなどと誘われた者は、ダイヤを買わされるなどとは夢にも思わず、会員に連れられるままに、豪華な内装等を施した被告会社の店舗で主催するBCに参加する。

(2) こうして集められた顧客に対し、被告会社は、その宣伝を兼ねて被告会社がベルギーから中間業者を介在させずに高品質のダイヤを輸入していることなどのダイヤに関する映画を見せた上で、被告会社のダイヤを購入するとその愛好会会員として様々な特典を享受できること、特に最も重要な特典であるビジネス会員となれば、高収入が得られるという宣伝活動を行う。

(3) このような説明だけではまだダイヤのことなど他人ごとのように考えている顧客に対して、その顧客を誘った会員は、BDMやトレーナーを紹介し、そのトレーナーらは、被告会社の店舗の豪華な応接セットで、預金通帳等を見せて現実に月々数百万円の収入があり、本件商法に参加すれば年収を月収にできるなどと高収入が得られることを繰り返し説明し、その際本件商法がいずれ破綻するものであることなどおくびにも出すことなく、むしろ三人の会員を増やすだけで簡単に元がとれ、その後は自己の配下の会員の働きにより莫大な利益が得られることや社長はもと通産省の役人であり本件商法はネズミ講やマルチ商法ではないことなどを自信満々な態度で説明し、本件商法に参加するために被告会社のダイヤを購入することを執拗に勧める。

お金がないと言う者には、クレジットの利用を勧めたり、他の者が立替えをしたりして逃げ口上を封じ、早くしないと安いダイヤがなくなってしまうとかこのチャンスを逃すと損をする等と言ってその場での早急な決断を迫ったりする。

(4) こうしてダイヤを購入した者に対しては、その場で会員の申込をさせ、承認面接に際しては金儲けの目的であるなどとは言わないように指導し、承認後にはMCCの受講申込をさせ、確実にMCCを受講するように確認をとり、紹介者は本人を同行するように指導して、会員が脱落しないようにしている。

またダイヤを購入した者が、帰宅後解約をしたいと言った場合には、解約を思い止まらせるように様々な説得を試みた結果、これを断念した者もいた。

(二) 被告会社が組織的に行った前記認定のような会員勧誘方法は、本件商法が早晩破綻に瀕する必然性を有し、破綻すれば大多数の者が損失を被るという実態を殊更に隠蔽し、逆に会員となれば確実にかつ手軽に高収入が得られるかのような誤信を与えるものであって、欺瞞に満ちた不当なものといわざるを得ない。

(三) これに対し、被告らは、無理な勧誘を排除し本件商法を維持拡大するため、まず、本件契約書において、新入者には納得の上契約をさせること、特異な成功例をあげたり法外な利益が得られると錯覚させるような言動説明をしないことの二点を特に明記し、会員に適正な勧誘を義務づけ、また、BDA及びトレーナーに対するBDAトレーニング、トレーナ教育等、会員に対するビジネス教室、MCC等を通じて適正な勧誘について実際に指導教育を行ってきており、被告会社として問題ある勧誘の排除に努めてきた旨主張し、証拠(乙八、四〇)中にはこれに沿う部分があるけれども、MCCなどにおいて、会員達に対し、会員の勧誘と組織化こそが高収入に結びつくことを繰り返し指導していたことは前記認定のとおりであり、こうした教育のもとでは現実の勧誘状況が執拗となることみやすい道理であって、被告らの主張するような適正な勧誘の指導自体が形式的表面的なもので、本件商法の本質から必然的に生じるべき欺瞞的詐欺的勧誘を防止するには全く不十分なものであったと言わなければならない。

なお前記認定のような勧誘方法は、それ自体が独禁法二条九項による「不公正な取引方法」(昭和五七年六月一八日公正取引委員会告示第一五号)八項(欺瞞的顧客誘引)及び九項(不当な利益による顧客誘引)にも抵触すると解される。

5  本件商法の違法性

以上の認定によれば、本件商法は、終局において破綻すべきもので、一度破綻すれば大多数の会員に損失を与える性質のものであり、無限連鎖講防止法及び訪問販売法に実質上抵触すると評価できる実体を備えたものであるのに、被告会社はこれを殊更に隠蔽し、射倖心を煽って独禁法に抵触するような極めて不当な勧誘方法を用いて組織の拡大を図ったものであって、本件商法ないし本件組織はそれ自体が公序良俗に反するものと言わざるを得ない。したがってこのような本件商法を開設し、運営し、あるいは本件組織に加入するだけでなく、加入を勧誘しまたはこれらを助長する全ての行為も公序良俗に反する違法な行為と言うべきである。

二  争点2について

1  ダイヤ購入代金、受講料、印紙代

前記のとおり、原告らは、それぞれ別紙損害一覧表記載のとおり、その購入年月日欄記載の日ころ、その購入物欄記載のダイヤを、そのダイヤ購入金額欄記載の金額で購入しあるいは少なくともその金額を購入代金名下に出捐し、MCC受講料及び印紙代として少なくともそのMCC受講料欄及び印紙代欄各記載の金額を出捐した(原告I、原告A、原告J及び原告FはMCC受講料を支払っていない、また原告K、原告L、原告M、原告E、原告I、原告N、原告G、原告A、原告O、原告J、原告P、原告Q、原告R、原告S及び原告Fは印紙代を支払っていない。)が、これらの金員は、いずれも原告らが、会員となるために出捐したものであるから、その名目の如何にかかわらず、いずれも被告会社の違法行為の結果原告らが出捐し、もって被った損害と認められる。

被告らは、受講料は受講の費用であり、印紙代は印紙税法の規定により負担したものであるとして損害であることを争うが、その出捐の趣旨名目が何であったにせよ、いずれも被告会社の違法な行為と相当因果関係に立つ出捐として損害に該当することは明らかである。

2  慰謝料

原告らが被告らの違法な行為により本件商法に参加したこと等によって様々な精神的苦痛を被ったであろうことは容易に推認されるところではあるが、原告らがこれに参加するに到った状況などの前記認定の事実関係に照らすと、本件全証拠によっても、そのような精神的損害が、原告らがダイヤ購入代金を出捐したことによって被った財産的損害の賠償を受けてもなお回復しえない程度のものであるとまでは認めることができない。

3  弁護士費用

本件訴訟の難易、審理の経過及び認容額その他本件に現れた一切の事情を考慮すると、本件訴状送達時における弁護士費用相当の損害としては、別紙認容額一覧表の⑤欄記載の金額が被告らの違法な行為と相当因果関係に立つ損害と認めるのが相当である。

4  損益相殺について

(一) 本件ダイヤの残存価格

原告らは、被告会社との間のダイヤの売買契約によって本件のダイヤを取得したが、本件組織に加入すること自体が公序良俗に反すると評価される以上、本件組織加入の条件とされた本件ダイヤの売買契約も公序良俗に反し無効であり、当然にはそのダイヤの所有権を取得することとはならない。しかし、このような公序良俗に反する契約の結果、原告らはダイヤの給付を受けたわけであるが、不法な原因が専ら売主である被告会社の側に存することは明らかであるから、結局その給付は不法原因給付にあたり(この点は原告らの自陳するところである。)、被告会社はその返還を請求することはできず、その反射的効果として、受益者である原告らは右ダイヤの所有権を取得し、もってその客観的価値に相当する利得を得たものである。このような利得は被告会社の不法行為に関連して生じたものであるから、原告らの被った損害の算定にあたっては、信義則上損益相殺として控除すべきものである。

そして本件のダイヤは、中等程度以上の品質を有する真正なダイヤであることは前記認定のとおりであるから、原告らが主張するように全くの無価値であるなどとは言えないが、もとよりその購入価格相当の客観的価値を有するものとは認めることはできず、前記認定事実に照らせば、少なくとも代金額の一〇分の一程度の客観的な価値(一〇〇円未満切り捨て)は有るものと認めるのが相当である。したがって、原告らの損害から別紙認容額一覧表の②欄記載のダイヤ残存価格を控除する(甲一21、26、33、七16、19によれば、原告T、原告I及び原告Uの購入したダイヤの代金額は、それぞれ三三万円、三四万円、三二万円であることが認められる。)。

(二) 原告らが配当を受けた販売媒介手数料等

原告V、原告W、原告L、原告X、原告Y及び原告Zが、いずれも本件商法に参加し、本件ダイヤの販売媒介に成功したことによって、別紙認容額一覧表販売媒介手数料等欄記載の各金員を、販売媒介手数料として被告会社から受領したことはそれぞれが自陳するところであり、かつ証拠(甲一3、7、15、22、23、37)により明らかである。

したがって、右原告らについては、その損害から別紙認容額一覧表の③欄記載の販売媒介手数料等欄の額を控除する。

三  結論

1  被告小城は、被告会社の代表取締役であったから、被告会社の違法な本件商法を遂行していた者として、民法七〇九条ないし商法二六六条の三及び民法七一九条の規定により、被告会社と連帯して、原告らが被った損害を賠償すべき責任がある。なお証拠(甲四九、乙五七)によれば、被告小城は、内部的には代表権が相当に制限されていたと認められるけれども、対外的には通産省出身の社長として本件商法の宣伝に重要な役割を果たし、また全国BDA会議に出席するなどして積極的に本件商法推進の先頭に立っていたと認められるのであって(甲二21、25、三九1ないし3)、右のような内部的事情は何ら同被告の責任を左右しない。

2  以上の認定によれば、原告らの本訴請求は、被告らに対し、連帯して、別紙認容額一覧表の認容額欄記載の各金員及びこれに対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな被告会社については昭和六〇年七月五日、被告小城については同年七月一二日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(裁判長裁判官永吉盛雄 裁判官佐藤陽一 裁判官菱田貴子は、転補のため署名捺印することができない。裁判長裁判官永吉盛雄)

別紙〈省略〉

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